追憶 ―箱庭の境界―
11・『 崩壊の日 』
11・『 崩壊の日 』
青年は焦っていた。
いつも穏やかな表情で柔らかに笑い、自分の能力を謙遜する控え目な彼。
女性に優しく、表立った優秀で真面目な性格に、様々な人物から声が掛かる。
力を持つ権力者からの誘いには、必ず出向いて信頼を重ねた。
毎夜の様に違う婦人から食事に誘われ、権力を持つ婦人は上手く利用して回った。
次第に、町の裏側では青年の悪い噂が囁かれる事も増えてきていたが、信じる者は少ない。
真実無根の「ひがみ」からのものだろうと、権力者たちは笑っていた。
力無き者の言葉など、
ただの戯れ言。
其れを身を持って知っていた青年は、気にも留めなかった。
青年の焦りは、
其れについてではない。
(…時間がない…!)
青年は、正式にシオン国に仕えるウィッチとして城で働き始めていた。
城の内部で働いていれば、勿論得られる情報も増える。
『王女が、隣国ラルファの王子に恋心を抱いている』
『嫁ぐ日も近いんじゃないか』
そんな噂が城内に広がり、其れが真実だと知るまでに時間は掛からなかった。
城内の誰もが浮き足立つ中で、青年は表面上は其れに合わせながらも、キリキリと胃を痛ませていた。