追憶 ―箱庭の境界―


次の日、
城の勉強部屋では、青年の前にあどけなく座る王女の姿。


「…さぁ、カルラ様。昨日は魔力が大きすぎて失敗していますからね?少し魔力を加減してやってみて下さい?」

青年は王女カルラの座る机に、例の小瓶をコトリと置いた。


「えぇ、マルク。でも、この小瓶って何なの?」

「ふふ、それは何回も説明致しましたよ…?」

「…私が、魔力を上手に調節して出せる様に…。それが出来る様にする為の訓練て聞いたわね?」

「えぇ、そうですよ?」

青年は穏やかに、
普段通りに笑っていた。


「この瓶の液体は何?中身は何なの?」

「…ただの水ですよ?」

「そう…かしら?」

何度も繰り返される此の行為に、勘の良い王女は疑いをかけ始めていた。


(…いいから早くやって下さいよ…)

青年は此の国の誰よりも勉学に励んできた自負が在った。
其れ故、王女の魔力を甘く見すぎている事に、青年は気付いてはいない。

王女は、感じていた。

ただの水でなく、此の瓶は「何らかの白い魔力が予め掛けられた物」だと…。

誰もが青年を信頼していた。
其れでも、実際に自分の血が感じた青年の違和感を、王女は無視する事が出来なかった。

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