追憶 ―箱庭の境界―
王女は小瓶に両手を添え、紅色の魔力を少しずつ込めていく。
黒い髪は風が無くとも宙へ浮き、王女の全身からは滲み出るように空気に色付く紅の色。
青年は焦る気持ちを必死で抑えながら、手に汗を握りしめ、其の様子を見つめた。
(今日こそは!今日こそは!)
(…薬の濃度は濃くしたのだから!紅の魔力だろうと吸収出来ないはずがないんだ!)
しかし青年の期待とは裏腹に、其れまでと同じ結果になる。
――…パァンッ!
「――!?」
「あぁ、ダメね?御免なさい。」
青年は気付かないが、王女はわざと小瓶を弾けさせていた。
「――もう一度です!」
青年は必死だった。
普段の穏やかさは微塵も無かった。
王女は、青年が笑顔の裏で小さくした舌打ちを聞き漏らしはしなかった。
「…何度やっても同じだと思うわよ?私には無理。幾ら加減をしても無理よ。」
「………。」
青年も馬鹿ではない。
此れ以上彼女に迫っては自分が疑われる事になると、引き下がるしか方法が無かった。
(…残された方法は…。紅色の魔力を手に入れる方法は…)
もう…
「彼女自身」を、
手に入れるしか無かった。