追憶 ―箱庭の境界―


女性の扱いはお手の物。
王女とはいえ、同じ女性にはかわりない。

王女に会う度に、
遠回しに掛ける青年の甘い声。


『カルラ様は今日もお美しい。貴女にお会い出来るなんて僕は幸せですね。』


『城内ではカルラ様がラルファ国に嫁ぐなんて噂がたっているんですよ?貴女に会えなくなるなんて…。そんな悲しい噂、僕は信じていませんけどね…?』


『僕には心に決めた方がいる。そう言って女性たちの誘いをお断りしているんですが…。僕があまりにカルラ様のお仕えに熱心なので、感付く方も多いんですよ。そんな恐れ多い。僕は傍でお仕え出来るだけで…』


カルラ様、カルラ様。

青年の必要以上の執着。
以前から眉をひそめていた王女以外にも、周囲の人間もまた青年に疑問を抱き始めていた。


王女に媚を打っている。
王女に取り入り、地位と権力を得る為の行動ではないか。

町で囁かれている例の噂は、
真実に近いのではないか…。

そう囁かれる事も増え、青年の此れ迄の信頼は失われつつあったのだが、青年は焦り故に周囲が見えなくなっていた。

青年から笑顔が消える日も多かった。


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