追憶 ―箱庭の境界―
日に日に余裕がなくなる青年を心配し、黒猫が同行する機会が増えていた。
其の日もまた、
監守室の横から入城する青年の後ろには、上品な黒猫の姿があった。
「御苦労様。おや、今日も可愛らしい保護者付きかい?」
監守が青年の後ろを歩く黒猫を見て、微笑ましく声を掛ける。
しかし青年は愛想をまく事も忘れ、「えぇ」とだけ答えた。
其れを補う様にして、監守に向けて黒猫が鳴いた。
にゃぁ…
『御免なさいね。マルクったら最近疲れているの。心配だから、私もお邪魔させて貰うわ?』
「あぁ、働きすぎかな。無理させない様にちゃんと見とくんだよ?」
城に仕える人々はウィッチばかりである故に、黒猫の言葉も自然と通じていた。
青年はといえば、彼らの会話を気にも留めず、深刻な表情を隠す事も忘れてブツブツと何かを唱えていた。
頭の中は、今日の自分の計画の事で一杯だった。
猫を抱え、地下に瞬間移動しようと身の周りに白い魔力を纏った其の時、監守が青年を呼び止めた。
「あぁ、待ってくれ。君に客が来てるんだった!」
「……客?」