追憶 ―箱庭の境界―


白い魔力をうっすらと纏ったまま、青年が不機嫌そうに眉をひそめる。


「…彼が…」

「…ここでなら必ず会えると思ってね。勝手に待たせて貰ったよ?」

手招きされた男が監守室から顔を出した。
其の顔には見覚えがある。


「…あぁ、確か貴方は…ジャンでしたかね?」

「あぁ。女性にしか興味の無いお前が、名前を覚えてくれていたとは感心だ。」

皮肉の隠った言葉。
普段ならば笑顔でかわす事が出来たが…。


「…貴方が、僕に何の用です?」

青年は苛ついていた。

只でさえ時間が惜しいという此の時に、待ち伏せされてまで一体何の用があるというのか。


「町で良からぬ噂が流れている。その噂が本当なら、アンネがあまりにも可哀想だ。だから、真相を確かめに…。」

「…アンネ?あぁ…。ジャンは『アンネ』に恋をしているんでしたっけ?」

青年は辛うじて穏やかな表情を浮かべながらも、感情を抑えきれず、彼を見下すように鼻で笑った。

「…何が可笑しい?」

「…いいえ?お気になさらず。」

数年前から変わらない。
何度アンネに拒まれようと、彼が諦める事は無かった。

ちらりと腕の中の黒猫に目をやると、呆れた様にシラっと瞳を閉じている。


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