追憶 ―箱庭の境界―


にゃぁ…
『……マルク?』

長年連れ添った黒猫でさえ、此の様な大声を上げて笑う青年を見る事は初めてだった。

黒猫が薄々恐れていた事が、今、目の前で現実のものになろうとしていた。



「…マルク!人を馬鹿にするのも大概にしろよ!」

「はははは!…馬鹿にする?あははは、だって…馬鹿ですよ!!貴方は!」


青年の心は、日に日に情緒不安定になっていた。
『青年の心が崩れる』
『青年の化けの皮が剥がれる』
其れを黒猫は心配していた。



「――…お前っ!!」

馬鹿にされた彼が青年の胸元に掴みかかり、黒猫が床に逃げ降りた。

今にも殴りかかりそうな彼を、監守が後ろから止めに掛かるが体格差が激しく直ぐに突き飛ばされた。


「――退けよ!殴らなきゃ気が済まねぇ!!」

「はっ!…暑苦しい…。それでも本当にウィッチですか?こんな時でさえ『暴力』『腕力』?あはははは…本当に、馬鹿なんですねぇ!?」

青年は目を見開くと、
手のひらを彼の体に向ける。

――シュン…

という一瞬の音と共に、
白い魔力が彼に向かうと、
彼は大声を上げて床に崩れた。


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