追憶 ―箱庭の境界―
にゃあ!
『――マルク!!』
「…正当防衛ですよ?手加減はしてあります。馬鹿につける薬はありませんねぇ?」
ニヤリと冷ややかに笑う青年。
痺れた体は言う事をきかず、其れを恨めしそうに見上げる彼。
青年は黒猫を抱き上げると、一度収まったはずの笑いを再び漏らし始めた。
ゆっくりと愛しそうに黒猫の背を何度か撫でる頃には、其の笑い声は廊下中に響き渡っていた。
「…馬鹿ですねぇ。あはははは!愛!?愚かな彼に、教えてあげましょうか?…ねぇ、アン?いえ…アンネ?」
『――…マルク!?』
もう青年は止まらなかった。
心が、
壊れ始めていた。
ジャンという名の男、
青年と顔馴染みの監守。
そして、何事かと集まって来た数名の輪の中。
声を上げて狂った様に冷ややかに笑う、穏やかなはずの青年の姿を見て、人々は戸惑いと驚愕を隠せなかった。
冷静に計画の事を考えれば、勿論他人に漏らして良い内容では無かった。
しかし、青年は言ってしまう。
「…貴方が愛していると言う『アンネ』は、この黒猫のアンですよ!?あははは…!可哀想なのは何も知らず僕に説教をする貴方の方だ!」
「…な…に…?」