追憶 ―箱庭の境界―
「あはは!アンネはこう言うんですよ。『ねぇ、ジャン。町で何か楽しい噂は無い?あたし退屈で死にそうなのよ?』と…物欲しそうに、琥珀色の妖艶な瞳を使ってね…」
『…マルク!』
黒猫は必死に止めていた。
彼1人なら未だしも、此処には沢山の人が集まっている。
今まで積み上げてきた物が、此の一瞬で消え去ってしまう。
「信じられないといった顔でしょうか?…何ならこの場で変身する様を見せてあげましょうか?」
「………」
「あぁ、安心して下さい。騙されていた男は何も貴方1人じゃあない。しかし…あはははは!『愛している』と言った男は初めてですよ!!馬鹿な男です!」
「…昔からお前が嫌いだった。それがお前の本性か…!この大嘘つきめ!!」
ピクリと、
青年の顔がひきつった。
黒猫の制止の言葉が、
やっと青年の耳に届いた。
「大丈夫…この場に居る人間の記憶を消してしまえば良い事です…。哀れなジャン以外のね!」
そう言うと青年は自分の後ろを振り返り、其の手のひらを遠巻きに見ている人々に向けた。