追憶 ―箱庭の境界―
(…消してしまえばいい!いつかサザエルで町外れの人々から「僕を消した」様に!ここでの、この時間を!)
「――…!?」
其の人垣の中に、
王女カルラを見つけて、青年は瞳を見開き固まった。
「…マルク。哀れなのは、貴方よ。貴方、一体何がしたいの?」
カルラ王女は、真っ直ぐに青年を見ていた。
人々は哀れむ様に目を細めて、青年を見ていた。
(……見…るな。見るな、そんな目で!そんな哀れんだ目で、僕をっ!!)
幼い頃、サザエルでの青年に向けられていた大人たちの目線。
蔑まれた其れと脳裏で重なる。
自身の白い魔力を王女に浴びせ、抵抗しようと青年は思った。
其処に居る人間ごと王女の記憶をも奪ってしまえば良い。
しかし、其れが出来なかった。
王女は自身の紅色の魔力を、静かに体に纏わせていた。
魔術の授業の際に見る其れと、まるで違う威圧感。
(…これが、あの紅色の魔力…?今まで…手を抜いていたと言うのですか!?)
王女の強い青色の瞳。
身体中に魔力を巡らせ、周囲の空気が紅色に染まる。
手のひらを向けたまま、
青年は何も出来なかった。
王女の威圧感に、青年の指先はカタカタと震えていた。