追憶 ―箱庭の境界―
少女は風に吹かれた緑色の草原の中で、我に言った。
「……鬼さん。もう…動けないんでしょう?もう、歩けないんでしょう?」
『…何故…?』
我は鬼。
箱庭を歩き回る。
定めに従い、次なる鬼を捕まえなければならない。
其の我が…
動けないはずがない。
歩けないはずがない。
「……自分の足を、見て?」
少女は、そう言った。
『……足?』
魂の揺れる樹に背中を委ねて尻をついて座り込んだ、地面に投げ出した我の赤褐色の両足。
在ったはずの、足。
未だ…感覚は在る。
『…我ノ足ハ…?』
其処には、無かった。
我の足先は、消えていた。
「…あのお婆さんが…言ってた。鬼の定めには与えられた期間があるって。次なる鬼を捕まえるか、赤い実が熟れて地面に落ちてしまう前に、その実を食べるか…」
『……?』
「赤い実は、鬼さんの心。地面に落ちてしまったら…この大地に吸収されて取り込まれてしまうから…。心を失ったら、鬼さんの体も、この世界の大地に…。」
だから…
我は消えていくのか。