赤い手の人
「いいでしょ?これ」
ゆきのは猫のように笑う。
あ、これは悪口じゃなくて、私が猫好きなだけ。
つまりは、かわいいってこと。
つられて私の顔も緩んだ。
「うん」
銀の十字架は、日の光で輝いて見えた。
私には、それがふたりの幸せの光だとも感じた。
光の線がお互いに交差しあい、光の十字架が何本も何本も浮かび上がる。
彼女はその後に裏も見せてくれた。
「Happiness to U?」
薄く、筆記体でそう彫ってあった。
「そ。『あなたに幸福を』って意味なんだってさ」
「この"U"は"you"なんじゃないの?」
「ユウジの"ユウ"とかけてるんだって。渡された時にあいつなんて言ったと思う?」
ゆきのは嬉々とした表情で得意げに話す。
ノロケを聞くのも、この子ならあんまり嫌じゃない。
「うーん。わかんない」
「これでオレとお前はひとつだ。って真面目に言われてさ。大爆笑したら真っ赤になってた」
ユウジの"ユウ"があなた=youと重なるからひとつ、か。
「クサいね。ユウジくんらしいし」
「でしょ!?」
ゆきのはひいひいとお腹を抱えて笑っている。
涙まで流して…。それじゃあユウジくんがちょっと可哀想だよね。
「いい彼氏さんだよね」
「個人的には、クサいセリフはとっておきにしてほしいんだけどね」
「独り身には叩きたいぐらいの愚痴だよ~?」
「よし、オーケー落ち着こう。僕たちは話し合えば分かり合えると思うんだ」
やっぱり。
昔の友達と変わらない調子で話せるのはゆきのだけだ。
この子のおかげで、絶望的な高校生活を回避できているのかも知れない。