scar of heart【BL】
きっと、今のお兄さんの表情が、お兄さんを嫌いになれない原因なのだろう。
そんなに切なく愛おしげに見つめられては、誰だって嫌いになることは出来ない。
もしも俺が有貴の立場であったとしても、同じことだと思う。
「こんな時に、冗談は寄せよ兄貴」
冷たく言い放つ有貴だけれど、本心からの言葉じゃないような、どこかでそんな気がした。
「俺は、お兄さんが冗談でそう言ってるようには聞こえない」
「流羽……」
すれ違う2人の様子を見ていられなくなった俺は、口を開いた。
「……有貴とお兄さんの関係に、俺が口を出していいことじゃないのはわかってる。だけど有貴、お兄さんは、今も昔と変わらない、有貴の大好きなお兄さんのままだと思うよ?」
有貴の両手を、俺の手で優しく包み込む。
俯き、下に流れる髪の間から覗く有貴の顔。
瞳を伏せ、下唇を噛み締めている。