scar of heart【BL】


耳を澄ませば、仕切りの向こうから聞こえる寝息。


「…ん、寝ちまったか…」


いつの間にか眠っていたらしい。

時間にしたら然程眠ってはいなかったみたいでホッとした。

惜しいけれど柚里の手を放して伸びをする。


「流羽の声だ…」


真っ先に、有貴が気が付いた。


「あいつ…授業サボって寝てたのか?」

「おい、有貴ちょっと待てって!」


市川の声など聞かず、ベッドの方へと歩み寄る有貴。

仕切りに手を掛けて、勢いよく横に滑らせた。


「………流羽」


名前を呼ばれ、後ろに顔を向けると、そこには有貴が立っていた。


「えっ、体育じゃなかったの…」


あまりに突然すぎて、動揺が隠せない。


「体育だよ。でも和馬が足捻ったから…」


有貴から視線を奥へずらすと、椅子に座る、市川の姿が。

嘘だろとでも言うような目でこちらを見ている。


「柚里ちゃん…寝てるの?何で幸村が…」

「…それは…しょうがなかったんだ。柚里、熱で倒れて…」

「幸村、出てって」

「…っ、ごめん市川」

「…今は幸村の顔、見たくない」

「……ごめん」


俺は静かに保健室から去って行った。


「…俺、授業戻るわ」


有貴も保健室を出た。


2人の足音が遠ざかっていくのを確認した市川は、痛む足を引きずり、さっきまで流羽が座っていた椅子に腰を下ろした。


「…どうして柚里ちゃんは幸村と…」


何も知らずに眠る柚里の横で、肩を落とす。

何故自分が、柚里の体調の変化に気付いてやれなかったのだろう…と、激しく後悔した。

そんな市川に釘を刺すかのように


「…流羽、くん」


熱にうなされ呼ぶ名前は、市川ではなくて、流羽だった。


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