scar of heart【BL】
並んで砂浜を歩くものの、終始無言のまま。
耳に入ってくるのは、波の音だけだ。
「…野球部、地区大会優勝したんだって?」
その微妙な雰囲気に堪えきれず、俺が沈黙を破った。
「お陰様でな。良い思い出になったよ」
少し寂しそうに笑う有貴の顔は、月明かりに照らされて、至極美しかった。
「有貴って、三浦とやけに仲良くね?」
「…そりゃ、ここまで努力や辛いことを共にしてきた仲間だし」
「三浦、カッコいいよな。男らしくて…俺から見ても憧れる」
「あいつ、裏表とか無いしね。内面もカッコいい」
「あれだけカッコよかったら、彼女も出来る訳だ!」
俺がそう言うと、何故か有貴は足を止めた。
「…あいつ、彼女いないよ…?」
有貴は俯きながら言った。
「でも、付き合ってる人がいるってすげぇ噂に…あれデマなのか?」
有貴の少し先で、足を止めた。
俺達の間に開かれた微妙な距離はまるで、お互いの心の距離を表しているようだった。
「あいつには確かに付き合ってるヤツがいるけど…彼女じゃなくて、彼氏がいるんだよ…」
「…そっか。有貴のこと諦めて、他のヤツに迫ったんだ?」
「違う…」
有貴の足元に、一粒の雫が零れ落ちた。
その雫が、砂浜に丸い染みを描く。
「……助けて…っ」
「えっ!?」
その場に崩れ落ちるように砂浜に膝をつく有貴。
目からは大粒の涙がぼろぼろと零れ落ちている。
本当のことが知りたくて、試すようにして聞いたのが悪かったのか…?
有貴を追い詰める気など、更々無かった。
何で、泣くんだよ。
勝手に動き出した身体は、知らぬ間に有貴を包み込んでいた。