scar of heart【BL】
「流羽くんっ、お待たせ」
「おう、柚里!」
玄関から俺のもとまで、長い髪を靡かせながら駆け寄るその姿は、実に可愛らしい。
「今日の私、変じゃないかな?」
柚里は小さく首を傾げながら、俺を見て言った。
日差しに溶けてしまいそうな涼しげなワンピース姿を見ているだけで、暑さなどふっ飛んでしまいそうだ。
「全然変じゃない。すげぇ可愛いよ」
「えへへ…嬉しい、ありがとう。流羽くんもカッコいいよ」
恋人になってからというもの、柚里は随分と感情をさらけ出してくれるようになった。
素直な想いを告げられる度に大きく胸が踊った。
こんなやり取りも、今日で終わるのか…
「行こっか?」
柚里に向かって手を差し出す。
何度その手を繋いできたのだろう。
俺が手を伸ばす度に、柚里は照れながらも嬉しそうに目を細めて笑っていた。
それを今日、手放してしまうのに、今は繋ごうとしている。
いや、繋いでいたい。
矛盾した心。
俺は本当に駄目な男だ。
思わず自嘲してしまう。
「エスコート宜しくね?」
そう言って、俺の手に、一回り小さく柔らかな手が重なった。
細く華奢な指に、自分の指を絡ませる。
俗に言う、恋人繋ぎ。
暑い暑い夏の日。
掌に柚里を感じながら、一先ず映画館に向かって、足並みを揃えながら歩き出した。
今日という1日はまだ始まったばかり。
雲1つ無い青空が、どこまでも大きく広がる今日は、良い天気だ。