scar of heart【BL】
「この後すぐ診察しようと思うんだけど、歩ける?」
先生は、落ち着いた口調でそう尋ねる。
「ちょっと…キツいです」
「そうだよね。じゃあ、車椅子で移動しよっか」
先生は優しく笑うと、部屋の奥から車椅子を持って来てくれた。
「お兄さん、ちょっと身体起こすの手伝ってもらえないかな?」
「はい、わかりましたっ」
先生と兄貴の腕が、俺の身体に回される。
兄貴が俺に触れている。
怖い、怖いよ…
ぎゅっと目を閉じて、車椅子の上に身体が乗るのを待つ。
「有貴くんって身長の割りに軽いんだね?」
「普通ですよ」
俺は愛想笑いを先生に向けた。
兄貴は、俺が怯えてたことに気付いただろうか…
ちらりと兄貴を盗み見るが、表情はさっきまでと変わっていなかった。
底の見えない笑みを、顔に貼り付けたまま。
車椅子を押してくれる先生の後ろに、母と兄貴が続いて、診察室へと向かった。