*The Last Year*
Birthday
「……あと5時間半もあるぞ」
教室の前にかかっている四角い時計をチラリと見、
本田は小声で喋りかけてきた。
冬期講習1日目。
今日はめでたいめでたい、天皇サマのお誕生日である。
「俺、頭おかしくなりそう」
ぐったりと机に突っ伏した本田の頭に、
先生がテキストの角をぶつけた。
教室のみんなが、冷たい目で本田を見ている。
いつもなら笑い声がどっと沸くはずなのに、
受験生ってピリピリしてるから嫌。
「本田、次の問題の答えは?」
最終的に先生に当てられた本田は、私に助けを求めるように、うるうるとした瞳で見つめてきた。
「……酢酸オルセイン溶液」
先生に気付かれないように、小さな声で教えてあげる私。
なんて優しいんだろう。
「サンキュ」
本田が、ニッと笑った。