My Dear Bicycle Racer!!
新井が首を傾げながら私に言った。ん~行く価値ありなのか無いのか・・
私は少し、悩み行くことにした。碓井峠なら、帰りに行くこともできるし。「じゃ、行ってみるよ。でも、月原みたいな人だったらどうしよう・・」
「あ~それは大丈夫だと思うよ。実際に見に行ったけど、ナンパするイメージは無かった気がするというか、あっという間に走り去ったから名前すら聞けなかったのだよ!」
新井は笑って親指を立てる。私もそれに応えるようにして親指を立てた。親指を立てるのは二人の中では親友の証だと新井は言う。そう言えば、こういうことをし始めたのはいつだっただろうか・・・。

新井と私は家が反対なので港湾駅で別れ、電車に乗り、桜ヶ丘駅に降りた。桜ヶ丘駅は字のごとく、桜の名所であり、春には300本の桜の花びらが街を覆う。碓井峠は駅の高台にある。その高台に行く途中に中型のマンションつまり、私の住んでる家があるのだ。私は家に戻らず、このまま碓井峠に行くことにした。
碓井峠は峠こそ名前があるが、実際には住宅地が並ぶ高台のことだ。以前というかこの街が再開発される前は本当の峠だった。夜中に車の暴走音が途切れなかったというのは有名な話らしい。住宅が増えだしてからは静かになったらしい。
この峠の頂上に有名な木がある。通称「無縁桜」という大きな桜の木だ。無縁桜で知り合った恋人たちは長くは持たないというところから名付けられた。
私は無縁桜のベンチに座り、新井が言ってた人を待った。携帯を見たらすでに午後6時を10分過ぎていた。少し肌寒く、ふるふると身体を震わせた。
10分、15分と待ったが一向に現れない。更に15分待ったが姿が現せない。
「来ないな・・・もう帰ったのかな・・・なんか、馬鹿らしくなってきた。帰ろうかな」
おそらく帰ったのか、たまたま通らなかったのだけだろうと確信した私は立ち上がり家に戻ろうとしたとき、光る物を見つけた。光はまぶしく私は手で覆った。
「何?車?」
その光は徐々に近づいてくる。そして徐々に速度を落とし私に近づいてきた。
そう、車ではなく紛れもなく自転車。だけど、その形は普段、目にするものとはずいぶん変わっている。



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