My Dear Bicycle Racer!!
(もしかして、えみりが言ってのってこれのこと?)
自転車に乗っている人はサングラスをはめ、手にはグローブ、レーススーツを着込んだ人だった。背は私と同じくらいか、もしくは少し高めだ。
フーフーという息づかいが私に聞こえてくる。その人はサングラスを外し、周りを見渡した。だがその目を見たとき、私は驚いた。そう、同じクラスである、桂木瞬(かつらぎしゅん)だったのだ。桂木瞬は、クラスでも目立たず他の連中とも話すこともしない。休み時間は常に机に肘をつき窓を眺めており、昼休みとなると必ず姿を消すのだ。私は、正直言って桂木と話したことがない。
私は声をかけようとしたが、その姿に圧倒されて声をかけることができなかった。桂木は私に気づいてないのか、そのまま無縁桜の前に立ち、大きく深呼吸をした。やがて、深呼吸が終わると振り返り、自転車にかけているホルダーの中にある、ボトルを手に伸ばし、それを口につける。フーというため息が漏れるのを私は聞いていた。桂木は私に気づいたのか、「どうも・・」という挨拶だけをしたのだった。
「か、桂木君だったんだ・・」
「何が?」
「いや、そのね、えみりに聞いたんだ。碓井峠に格好いい人が出るって」
「新井さんか・・・。格好いい人は見つかったの?」
「え?いや、その・・・」
私、何ドキドキしてるんだろ・・。相手は同じクラスじゃん。普段とは違う姿だから??あ〜も分かんない。
「どうしたの?顔、赤いけど。風邪?」
「違うの。風邪じゃないよ。桂木君っていつもここに来るの?」
「うん。趣味みたいなものだから。ここに来るとなんとなく落ち着くんだ。嘉納さんって確かこの辺に住んでいるんだよね。いいよね〜ここなら全部忘れることが出来そう」
「へぇ〜そうなんだ。てか、変わった自転車だね。ママチャリじゃなさそうみたいね」
「乗ってみる?」
「え?いや、いいよ。壊したら大変そうだし。こういうのって高いんでしょ」
「別に、高くは無いよ。違和感はあるけど、慣れれば平気だし。ごめん、そろそろ帰らないといけない。また、明日」
そう言うと、桂木は自転車にまたがり、坂を下っていた。見送った後、私はなにかしらの暖かい感覚に包まれていた。


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