Salvation 〜救い〜
12月も

中旬に差しかかっているので

こんな時間の夜風は

身を切るように冷たい。



背中を丸めて

ドアに鍵をかけようとしたら

後ろから声をかけられた。



「トシキー。やっと会えたー。」



振り向かなくても

その声が誰なのかは明らかだった。



このミカって女は

なんでこうも

人の都合とか

気分とかを

全て無視して

生きていれるんだろ。



その思いが

伝わったのかはわからないが

ミカがけげんそうな表情になった。



「トシキ?」



「悪い。今から出かけなくっちゃならない。」



「えー。サイアクー。せっかく来てあげたのにー。」



ミカは

首に巻いていた

高そうなファーのストールを

これみよがしに揺らして

トシキの言動に抗議する。



「ねぇねぇ。こんな時間だしさー。なんの用か知んないけどー。もういいじゃん。シカトしとけば?」



「そんなわけいかねえよ。大事な用なんだよ。」



「じゃぁ ミカにこのまま帰れっていうのー? ひどすぎー。」



この女に「キレ」ることができたら

どんなにいいだろうとトシキは思ったが

暴力性の無い相手には

どんなことがあっても

「キレ」ることはなかった。



「わかったよ。じゃあ、中で待っててくれ。できるだけ早く帰れるようにすっから。」



トシキは今締めたばっかりの鍵を再度開けて

ミカを中へ入れた。



「早くだよー。絶対だよー。」



ミカの言葉を聞き流して


小走りに階段を下りる。



カンカンカン



冷たい音が

街中に鳴り響いているようだった。
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