Salvation 〜救い〜
「うぅ、さみぃ・・・。」



猫背になり

早足で歩く。



大通りから細い道へ入り

また別の大通りに出ては

別の細い道へ。



20分ほど歩くと

目的地へ着いた。



そこはどの駅からも

ちょうど中間点にあたるへんぴなところだ。



おそらく築30年以上は経っているであろう

家賃の安そうな

3階建てのアパートだ。




その建物のはしにある階段を昇ると

カンカンカンと耳ざわりな音がする。



トシキの部屋は、2階の、その階段の反対側のはし

つまり一番奥だった。



ジーンズのサイドポケットから

エンブレムのキーホルダーを取り出し

ドアノブの鍵穴にキーを差し入れる。



カチッ

という安っぽい音でドアが開錠される。



「こんなものその気になれば10秒で壊せるんじゃないか。」

とトシキは毎回思う。



ドアを開けて

誰もいない暗く冷えきった部屋に

パチンという音がひびく。



電気のスイッチが入ると

テーブルの上の

銀色のアルミニウムの

灰皿だけが鈍く光っている。



タバコを一本取り出し

100円ライターで火をつける。



シュボッ



「ふぅ・・・。」



大きく最初の一服を

肺に深々と吸い込んで

煙をゆっくり吐き出す。



緊張していた全身の筋肉がゆるみ始める。



のどがカラカラになっていることに気づき

タバコをくわえたまま冷蔵庫の扉を開ける。



ビィービィービィー



半分ほど残っているペットボトルの中のお茶を

今朝洗っておいた流しのグラスに注ぎ込んだところで

ポケットの中のケータイがバイブの振動を始めた。
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