Salvation 〜救い〜
トシキが16歳になった年の

梅雨はとても長かった。


平年より2週間以上も遅く

梅雨明け宣言が出された週の

日曜日だった。


いきなりのうだるような暑さの中

横井はふらっと施設にやってきた。


普段の日曜ならバイトに出ているトシキだったが

その日はたまたま休みだったので

部屋で宿題をしていた。


「よぉ、トシ。」


暑さで

ドアを開けっ放しにしていたトシキの部屋に

なつかしい声がひびいた。


「あっ、シュンちゃん!」


シュンちゃんとトシ

二人はそう呼び合っていた。


年齢差があったので

実際に施設で一緒に過ごしたのは数年だけだったが

二人は仲の良い本当の兄弟のようだった。


「ちょっといいか?」


横井は派手なシャツを着て

サングラスをかけていた。


しかし

トシキに対する口調は

昔の優しかった頃のままだった。


「うん。もちろん。」


その頃既にトシキには

「キレるとヤバい」

という噂が広まっていて

友達は少なかった。


もともと社交的なほうではないトシキは

あえて自分から

他人に近づくというようなこともなかった。


そんなトシキは横井のことを実の兄のように

感じていた。


「お前、来週の金曜の夜時間あるか?」


横井は部屋の付近に誰もいないことを確認し

かつ小声で話し始めた。


「金曜の夜って・・・・まあ、学校終わってからなら・・・。」


「ここには俺の家に外泊するってことにすればいいから、学校終わったらあるところに来てくれ。」


「あるところって?何しにいくわけ?」


「ちょっと俺の仕事を手伝って欲しいんだよ。」


横井の目には怪しい光が宿っていた。

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