いくつかの夜
「あ!お花!お花プレゼントしてください!」


指差す方には、飲み屋街だからこそオープンしているのであろう小さな花屋さんがあった。


「良いですよ〜。じゃあとびきりの花束でも。」


立ち止まった花屋さんの店先は、とても可愛く彩られ、そこだけが別の世界の様だった。


「すみませ〜ん!」


「はぁい。」


奥から店員がやってくる。


「とびきりの花束を。ね、哲也さん。」


「え?あぁ、彼女に似合いそうな花束を。」


『はい。とびきりの花束ですね。』


店員が手際良く花を選んでいく。


「私達、似合ってます?」


聞かれて店員が一瞬手をとめた。


『はい。とってもお似合いですよ。』


店員がにっこりと微笑み、また手を動かし始めた。


『彼氏さんからのプレゼントならとびきりにしなくちゃですねぇ。』


出来上がった花束は、本当にとびきりの花束で……


店員の笑顔も後輩の笑顔もやっぱりとびきりで……


でも、俺の心臓の音が一番とびきりだったに違いなかった。



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