いくつかの夜
「ちょっとだけ歩こう。」


「ん?風邪悪化するぜ?」


そっと腕の中から抜け出ると、宙に浮いた俺の手を取る。


「こうやって歩きたい。」


絡めた指と嬉しそうな笑顔。


「よし。出発。」


繋いだ手から伝わる温もり。

揺れる度に伝わる想い。


「鼻の下のびてたよ。」


花束を買った時?


「沙良に逢えたからかな。」


「嘘つき。」


嘘じゃないさ。

だって、花束より、沙良が可愛いくて愛しかったから。

花束を作りながら笑ったから。

きっと、約束を破られた沙良もこんな風に笑って何でもないことにしてるのかなって……

胸の奥がちくっと痛んだから。

だから、やっぱり沙良が大好き。

鼻の下ものびるってもの。


「日曜、仕事?」


「さぁね。」


意地悪な瞳で答えるのは、きっと大好きだから。


「映画でも行く?」


「前向きに検討しとく。」


絡めた指が嬉しそうにはしゃぐ。

残業も、逢えない辛さも全てこの瞬間の為。

この夜の為。

そう思えば頑張れる。





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