いくつかの夜
花屋さんの夜
「いらっしゃいませぇ。」


水につかるところの葉っぱを素手で一気にはずした。


「っ!」


あかぎれの切れたところに綺麗に葉っぱが通りすぎた。

瞼をぎゅっと閉じ、痛みが行き過ぎるのを待った。


「痛いの痛いの哲也にとんでけぇ。」


ちっちゃい声で唱えてみる。

飛んでったつもりで瞼を開ける。

はずした葉っぱを集めながら飛んではいかなかった痛みをグッとこらえた。

あかぎれなんて何でもない。

今は良い薬もある。

赤くただれた指を見つめながら、小さな溜め息がもれた。


「沙良、奥からデンファレの白持ってきて。」


店長の母が手際良く花束をつくりながら足りない色をみつけだす。


「あー、ピンクも二本。」


「は〜い。」


出来上がっていく花束を見ながらにこにこしている小さな女の子。

この笑顔が大好き。

あかぎれなんか吹っ飛んでいく。

哲也なんか必要ないね。

心ん中でこっそり舌を出した。


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