なんでも屋 神…第一幕
放心状態のままキャップだけ頭に被り、導かれるように一葉に腕を引っ張られていく。



次第に激しさを増していく秋雨は、俺の心にも雨を降らした。



家の前でウィンカーを出して停車しているタクシーに、一葉に詰め込まれるように乗せられたが、俺の焦点は何処にも合わない。



「至急安田病院に向かって下さい!ちょっと神君しっかりしてよ!神君がそんなんでどうするのよ!」



俺の左腕を揺さぶり、現実世界に引き戻そうとする一葉を、この時初めて憎く感じた…。



ヒロは昨日、あんなに俺に怒っていたじゃないか…こないだ会った奏は、あんなに元気だったのに…松……松………死んだなんて嘘だよな?



邪魔なものを取り除くよう、右に左に動き続けるワイパー。運転手も事態を察したのか、何も話しかけては来ない。



俺はただ、黙々と増え続けていくデジタルの金額表示しか見えていなかった。



タクシーの外では稲光…その光と音は俺の心を引き裂き、目にしたくない現実を照らし出す…。
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