なんでも屋 神…第一幕
何も家具が無い部屋の隅では、化粧っ気の無い嫁と子供が抱きしめ合っている。



不安だったんだろうな…。



「そうだ、一ノ瀬さんアンタね、家財道具一式なんて持ってこれる訳無いでしょうが!」



情けなくオドオドしている一ノ瀬を後目に、松と二人で部屋に荷物を運び込む。



荷物を運ぶのは直ぐに終わり、これで夜逃げ依頼は達成となる。



「これは約束していたお金です。」



一ノ瀬はそう言いながら、厚みのある茶封筒を俺に手渡してきた。中身は今回の依頼金である、二百万の現金。



「これから貴方は一ノ瀬守では無く中島則男。そちらに居る奥さんは飯島良美。それで娘さんは瀬波綾となります。娘さんには大きくなったら、ちゃんと話してあげて下さい。貴方達に過去は有りません。これからは未来だけ考えて生きて下さい。これで貴方達とはもう二度と会う事は無いと思います。では、お幸せに。失礼します。」



そう言って俺と松は、[白雲荘]を後にした。
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