真冬の恋人
男がベンチに座ったので、私もその横に座ることにした。
木製のベンチは、ひんやりと私を冷やす。
「はい、これ」
そう言って男が差し出したのは、ココアの缶。
受け取ったそれは、やはり冷たい。
「また、アイスココア?」
「ホットは売り切れてたんだ」
悲しげに笑った男は、私の手をそっと握った。
「っていうのは、嘘」
私の手に重ねられた男の手は、氷のように冷たかった。
「……っ……手」
私の手に触れた男の手からは、水が滴っている。
そして、みるみるうちに男の手は消えてしまった。
私は思わず男の顔を見た。
にっこりと笑って、全身で私を抱き締める彼。
私は、彼の笑顔を思い出していた。