真冬の恋人
行きも帰りも、頼んでもないのに送り迎えする男。
「何歳なの?」
「11歳」
歳を聞いても、真面目に答えてくれなくて。
「冗談言わないでよ。21歳なの?」
そのあと何度聞いても、男は笑ってごまかすだけ。
「名前は?」
「無いよ」
名前すら教えてくれない。
「じゃあ、なんで私の事知ってるの?」
「真帆子がぼくのことを思い出せば、わかるはずだよ」
思い出すもなにも、私は本当にこの男のことを知らないのだ。
「もう。私に付きまとわないでよ」
「ぼくはただ、恩返しがしたいんだ」
悲しそうな顔をされると、邪険に扱うことができない。
朝だって帰りだって、
この男は薄いTシャツ1枚でずっと私のことを待っている。
この寒い寒い空の下で、ずっと。
「寒くないの?」
って聞いても、
「寒くないよ」
って答えるだけ。
家の中に入るように勧めても、兄の上着やマフラーを渡しても、
男は全てを拒否するだけだった。