真冬の恋人
「じゃあね、真帆子」
男は私の家の前まで来ると、
にっこりと微笑んで、その場から動こうとしなかった。
これはいつものこと。
朝までここで、ずっと待っているのだ。
冬の冷たい風が、私の頬を刺すように吹いた。
白い毛糸のマフラーを口元まで上げる。
「寒いから、家に上がりなよ」
「ぼくは寒くないから、大丈夫」
グレーのボタンが3つ付いた、薄手のロングTシャツ。
普通のジーンズに、普通のスニーカー。
上着も羽織らず、マフラーも手袋もしていない。
こんな格好で、大丈夫なわけがない。
それでも男は寒さなんか感じないというように、にっこりと笑っている。
「早く家に入らないと、真帆子が風邪引いちゃうよ」
男の謎は、増えていくばかりだった。
「……凍死してもしらないからね」
私は男の存在を気にしないように努め、玄関の扉を開いた。
ズキンと良心が痛んだ気がしたけど、私には関係ない。
勝手に私に付きまとう、この男が悪いのだから。