ブラッティ・エンジェル

またね

 これで、良かったのだろうか?本当に、良かったのだろうか?
 彼は、禁忌を犯した。
 人を殺めるという禁忌を、彼は犯した。
 彼は、人間の女性に恋をした。彼女も、彼のことを愛していた。
 愛していたから、彼にあんな頼み事をしたのだろう。
 彼女が彼に頼んだこと、それは『自分を殺す』ことだった。
 彼女は病に冒されていて、もう助かることはなかったそうだ。
 だから、彼女は思ったのだろう。
 このまま、ただ死ぬだけなら、心から愛した人の手で殺されたいと。
 そして、その願いは叶った。わたくしのアドバイスが背を押した。
 禁忌を犯した彼は、もちろん消される。
 しかし、最期に見たエンテンの顔は、実に穏やかだった。
 穏やかに、笑っていた。
 どうしてあんな顔、出来るのだろう?
 他人のせいで、自分が消えてしまうのに?
 その答えを、わたくしはすぐに見つけられたと思う。
 それは曖昧で、脆くて、不安定で、綺麗なもの。
 きっと、それなのだと思う。
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