ブラッティ・エンジェル
「ゆずと付き合ったのは、もう3年前です。そんで別れたのが、去年のことッス。
 俺が話せんのは、その間に話したことだけッスよ。
 ゆずの見た目って、めちゃくちゃ目立つっしょ。だから俺、ゆずに聞いたんッスよ。
 そしたら、ゆず、サヨになりたいって言ったんッス。
 サヨさんのこと、すんごく好きみたいでしたよ。あいつ、よくサヨさんの話してましたから。
 あと、よく原谷希の話もしてくれました。
 希君はサヨさんとお似合いで、あたしはあの二人が大好きなんだって、言ってました。
 あたしも、あの二人みたいな恋をしたいって。俺の前で言うもんッスから、リアクション困るんですよ。
 あと、俺が原谷希に何となく、似てるとも。なんか、思い出しただけで、むしょ~に腹立つ。
 んで、俺と別れる時に言った言葉なんですが、俺、いまいちイミわかんないんっすよ。
 ごめん、別れなきゃ。これ以上一緒にいたら、ダメなんだ。忘れちゃいけないのに。
 イミわかんねぇ」
彼の口から出てくる、ゆずの言葉がサヨの耳には、ゆずが話しているように聞こえる。
 了介は、悔しそうに下唇を噛んでいた。
「ありがとう。了介君」
それだけ言うのが、今のサヨには精一杯だった。
 ゆずが別れたときに言った言葉。どこか自分にも心当たりのある言葉。もしかしたら、ゆずも…。
 今すぐにでも、ゆずと話したい気持ちを抑えて、サヨはもう一度了介に向き合った。
「それで、了介君。私に相談があったんだよね」
「そうなんッス。サヨさん」
眉をひそめる彼の姿は、とても幼く見える。
「俺、ゆずがまだ好きなんです。アイツは、俺の運命の相手だと思うんッス。アホに聞こえるかも知れませんが、マジなんです。
 だから、ゆずが俺をふった理由が知りたいんッス。真実を」
「そう。それなら、大丈夫よ」
私は微笑んで見せた。
 そう、大丈夫。
 それは決して彼を安心させるだけの軽い言葉なんかじゃない。
 確信ではないけれど、きっとこの2人の結末は、ハッピーエンドのはずだから。


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