ブラッティ・エンジェル
 二人っきりになり、サヨの心臓の音はもっと早く、もっと大きくなった。
「わ、私、一応、元の服に着替えるね」
そういって試着室のカーテンを閉めながら、服に手を掛ける。
 ゆずちゃんにも、望にも、あと了介君にも悪いけど、いつもの服が一番いい。
 まあ、着せ替え人形にされるのも楽しかったけど。
「え?ちょっと待ってよ。そんなすぐに着替えなくても」
「ちょっ!?」
サヨはいきなり開いたカーテンに、目を丸くした。
 それもそのはずだ。さよは、すぐに着替えるつもりだったものだから、上着は脱ぎ捨てていて、スカートに手を掛けていた。
 つまり、サヨの格好はブラに脱ぎかけのスカート、下着姿と言っても過言ではないのかもしれない。
 サヨは目を白黒させる。
 望も驚きのあまり、カーテンを開けたまま身動きがとれないでいた。
 幸運な事に、試着室の近くには人の行き来がない。
 と、望の後ろからヒューと口笛が聞こえてきた。
「若気の至りってか?」
おかしそうに声を震わせている了介が見えて、サヨはやっと状況が把握できて、その場にしゃがみ込む。脱いだ服で体を隠す。
 恥ずかしくて恥ずかしくて、体中が熱くなる。
「え、いや、その、ちが…。ごめん」
慌ててカーテンを閉めた望は、試着室に背を向けてしゃがみ込んだ。たてた膝に額を押しつけて、必死に顔を隠していた。顔だけじゃなくて、感情とか恥ずかしさとか、そう言ったもの全部全部隠すように、身を縮めた。
 その横に、おかしそうにしてる了介がしゃがむ。
「望くんも、男だったってわけねぇ」
「了介と一緒にされて可愛そうね。サヨ、大丈夫?」
うんっと小さく、か細い声がカーテン越しから聞こえた。
 その中で、サヨがどんな行動して、どんな顔をして、どんなことを思っているのか、わからないけど、恥ずかしくて死んじゃいそうなことぐらいは、女のゆずにはわかる。
「出てこられる?」
と、カーテンがシャッと開き、いつもの格好をしたサヨが出てきた。
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