ブラッティ・エンジェル
 もう夜なのに、そこだけなぜか暖かな光に包まれているような錯覚に襲われた。
 電気をつけて、光をさしてみると身動きがとれなくなってしまった。
 部屋を見据えたままの目からは、涙が溢れ流れた。
 真っ先に目に映る壁一面に、天使の羽を広げ女神のように柔らかく優しい微笑みをしているサヨが描かれていた。
 一瞬サヨだとわからなかった。それぐらい、神聖なものに見えた。
 そして、いくつか置いているキャンバスにはあの日々が柔らかなタッチで描かれていた。
 笑いあう、サヨと希。バイトのみんな。懐かしい日だまりの日々がそこにあった。
 真ん中の真っ白い、キャンバスが1つだけこの部屋で浮いて見えた。
「希、綺麗だね。ねえ、見えてる?なんで隠してたのさ」
サヨはそっとネックレスを外した。
 鈍く光っている希に一筋の涙が落ちた。
「いい…思い出だね、希」
その時、希が小さく光った。
「もう、行くんだね。違うか、私が縛り付けてたんだった」
あははと小さく笑って、サヨは希をギュッと抱きしめてから、真ん中に置かれた何も描かれていないキャンバスに掛けた。
「さようなら、希」
瞬間、暖かい光に包まれる。
「さようなら、サヨ。幸せに」
懐かしい、昔大好きだった希の声が聞こえた。懐かしいぬくもりが頬に触れた。
 光かひいて、あの部屋に戻されたサヨの胸には望から貰ったネックレスが光っていた。
「全部、決着をつけたよ。望」
振り返った先には、ずっとサヨのことを待っていてくれた今の愛しい人がいた。

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