ブラッティ・エンジェル
 「ヒナガ!ユキゲに何を話しましたの!?」
扉の前に動揺を隠しきれないウスイと、冷静なのかもわからない感情のない笑顔のセイメイがいた。
「あなたが全部話しちゃったんだネ。そのうち、ボクが話そうと思ったのに。先越されちゃったヨ」
「申し訳ありません。しかし、これは私の役目なので」
穏やかな声に聞こえるのに、どちらともどこかトゲが見える。
「全部って、まさか!どうしてですの!?ユキゲに教える必要はなかったはずですわ!」
珍しく感情をあらわにするウスイ。
 いや、最近はこっちの方が多い。
「彼にはいずれ話さなくてはいけないことでした」
「そんなことありませんわ!余計なことを…!」
「彼は、関係者です。余計なことではないはずです」
「でも…!」
「いい加減になさい!いつまでユキゲから逃げるつもりです?」
母親のようにウスイを叱りつけるヒナガ。それに、何も言えなくなったウスイ。
 そんなの、わかっていた。わかってる!だけど…
 もう頭に血が上ってしまって、冷静な判断が出来ないウスイは感情のままに部屋から出て行った。
 どうしたらいいのかわからないユキゲは、ウスイが出て行った扉をずっと見つめていた。
 あとを追うべきなのか。追っていいものなのか。考えがあっちに行ってはこっちに行って、ひとつにまとまらない。
「キミは追わないんだネ。キミにとってウスイはそんなものだったんだ」
セイメイのその言葉が、ユキゲの胸にグサッときた。
 そんなものだって?俺がウスイをそんな風に思ってるわけない!
 そのことにやっと気がついた。ユキゲは風にも勝らず劣らずの早さで飛んでいった。

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