ブラッティ・エンジェル
「……その店、行ったことあるの?」
「あります。でも、店には入ったことが無くて…」
「は?そんなの、行ったことないのと一緒じゃないのさ」
彼女は少し驚いて見せた後、恥ずかしそうに笑った。
 カプチーノはすっかりぬるくなってしまった。
 熱々がうまいのに、コイツは何をしてんだ。なんて、悪態をついてたな。心の中で。
「一人で行くのが恥ずかしくて…。みんな、友達とか恋人とかと、一緒のようで」
「友達誘わないの?」
とたん、ヒナガの顔は真っ赤になった。茹で上がったたこみたい。
 失礼。リンゴみたいに頬が赤くなってかわいらしかった。といった方が、ロマンチックだろうか。
 そわそわ。あたふたあたふた。あきらかに動揺していた。
 もしかしての、もしかして!?
 俺は内心無茶苦茶期待した。今まで無いぐらいドキドキしたしキラキラわくわくした。
「その…」
 きた!
 俺は心の中で絶叫した。
「一緒いく友達はいるんですけど、行けなくて」
へ?
「というか、行ってるんだけど行ってることにならないのですよ」
俺の完全なる勘違いか?え、期待損?
「嘘でしょ~」
頭を抱えてその場にしゃがみ込んだ。
 アイツは知らないにしろ、恥ずかしい。恥ずかしすぎる。しかも、期待が大きかっただけにショックも予想以上にでかい。
 もう、立ち上がれない。起き上がれない。再起不可能だ。
 あぁ、俺の人生はもう終わってしまった。
「だから…」
いや、星司。お前は男だろ。女から誘われんの待ってんじゃねぇよ。男だろうが。
 俺は勇気を振り出して立ち上がった。
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