ブラッティ・エンジェル
「俺と…」
「一緒に言ってくれます?」
「へ?」
俺は間の抜けた声をあげた。それが言葉なのかすら怪しい声を。ちょ~かっこわるい声を。
 ヒナガは恥ずかしそうに顔全体をもっと赤くした。茹で上がったカニかエビ。じゃなかった。火?炎?違うな。なんだ?その…、バラ?でいいか。バラみたいだった。
 違う違う。今大事なのはそこじゃないって。
 俺、今、デートに誘われてんの?しかもヒナガに?
 えっと、現実だろうか?夢じゃないの?
 頬をつねってみた。痛い。
 手の甲をつねってみた。痛い。
 髪を引っ張ってみた。痛い。
 コーヒーカップを振り上げた。止められた。
「え?なにやってるんですか?」
「いや、ちょっと、確認?」
コーヒーカップを戻して、首を傾げる。
 現実のようだ。手首を握っている、ヒナガの手が温かいから。
 あぁ。そうか。現実なんだ。そうかそうか。
「って、いつまで握ってんの」
俺は思わず、その手を振り払ってしまった。
 名残惜しい。惜しいことをしたのかも。
「すみません。危なかったので」
ヒナガは心配してくれただけなんだ。俺のことを心配して。
 まぁ、誰でも目の前でコーヒーカップなんか振り上げられれば、止めるよな。
 今度は絶対勘違いしないぞ。
 俺は、さっきのショックが大きすぎて、少し人間不信になっていた。
 しかし、心の奥底、じゃないところでは、脈ありなんじゃないのかと期待が溢れていた。
「あの、そんなに嫌でしたか?」
不安そうに眉毛を下げる彼女に、胸がずきんずきんと痛んだ。
 俺はもちろん慌てた。
「違うって。確認だって言ったでしょうが」
「確認?」
訳がわからないだろう。そりゃあな。俺だってわからないからな。
「なんだ。別に、一緒に行ってやってもいい」
やっぱり、ぶっきらぼうな言い方になってしまう。
 でも、顔が喜んでいるのと赤くなっているのは流石にわかった。
 情けない。見られない様にヒナガの目を覆いたい。
「本当ですか!」
その顔は卑怯だ。
 満開の桜のようなその笑顔は、卑怯だ。
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