ブラッティ・エンジェル
「ヒナガに心がないわけないでしょ。 心ってのは、その人自身の意志で、存在。俺はそう思う。自分の思いに逆らって生きると、自分を失う。だから、俺はお前を一生離さない。お前が離れたとしても、一生待ってる。俺には、お前だけなんだ」
「何十年も。あなたは待っているというのですか?」
「死んでも待ってる」
それが俺の心。
 じゃあ、ヒナガの心は?
「天使のお務めは長い。本当にいつ終わるのかも、本当に終わるのかもわかりません」
俺は、覚悟を決めていた。どんな結果になっても、ヒナガをヒナガの思うとおりにしてやろうと。
 今ヒナガの語っていることは、心。
 それなら、否定なんて出来ない。
「しばらく、私はあなたに会いません」
つなぎ止められなかった。
 俺は非力なただの人間だから。まだ、子供だから。
 なにも出来なかった。
「…待っていて、もらえますか?いつになるかわかりませんが」
俺はただただ呆然としていた。
 つなぎ止められた?
 待っていてもらえますか。
 その言葉が頭の中で響いた。
 俺の腕から離れたヒナガは青い空を背に、花のように笑っていた。
 頬に涙の後が残っていた。しかし、もう乾いていた。
 そうだ。今は泣くべき時じゃない。
 今は笑って、彼女を送らなければ。
 泣きたい気持ちを抑え込んだ。
 笑った。また会える日を祈って。願って。期待して。笑った。
「人間になって帰って来ます」
それだけだった。
 なにも残さずに消えていった。
 言葉通りにヒナガは姿を見せなくなった。
 しかし、恋しい気持ちが変わるわけがなかった。今でも、愛している。
 だから、俺はずっと待ち続ける。いつでも帰ってこられるように、またカプチーノをいれてあげられるように、喫茶店を続ける。
 時折、銀髪の兄ちゃんがヒナガの手紙を届けてくれる。
 俺を気遣う文章や、今の自分の様子、友達のこと。
 そんな事をまとめて手紙をくれる。いや、くれてた。
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