ブラッティ・エンジェル
 それが終わると、探偵のようにあごに手をつけてサヨの顔をのぞき込んできた。
「流石は我がクラスのアイドル。すんごい美人さんを捕まえましたなぁ」
「アイドル?」
サヨは首を傾げた。アイドルというものは、どういうものなのかサヨにはサッパリだった。
「雨宮望といったら、我が学校のイケメンの一人なのだよ」
望が慌てたように加藤の口を押さえようとしたが、それは意図もたやすくかわされた。
「そりゃあモテモテで、女子からのラブコールは星の数」
望をかわしながら、加藤はのんびりと学校の望に関して話してくれた。
「しかし、誰とも付き合わず。聞いた話じゃ、好きな人がいるだとか」
その言葉に、サヨは一気に体が熱くなった。
「まさか、もうゲットしてたとは。しかもこんな美人を」
「美人じゃ、ないよ」
恥ずかしそうに、サヨは俯いた。その反応に加藤は、面白そうに目を細めた。
「ちなみに、どこ高?あ、もしかして年上だったりしちゃう?」
年上といえば年上だけど。サヨは対処に困っていた。
 ナンパを上手く受け流したことは幾度となくあったが、今の様な場合はどうするべきなのだろう。
「うるさいぞ、加藤」
望はぽこっと加藤の頭を小突いた。いてぇよと頭を不満そうに言っているが、加藤の顔には笑みがまだあった。助かったとサヨは胸をなで下ろした。
 と、不意に肩に腕が回された。加藤のものでも、望のものでもない。さっとサヨの鳥肌が立った。二人でないとすると、彼しかいない。
 またさっきの繰り返しになるかもしれないと、サヨは離れようとした。
 しかし、肩にあった腕が腰をがっしり掴む。逃げられない。サヨは焦った。
「ボクはこれから返事をもらいに行くんだヨ」
耳元でささやかれた言葉に、サヨの胸が大きく鳴った。
 そんなサヨを知ってか知らずか、セイメイはふっと笑うとサヨの頬にキスを落とした。
 さっきまであんなに笑っていた加藤が、驚いたような顔をする。望も、不快そうに眉を寄せている。
「そんなに驚かないでヨ。別れのキスぐらいでサ」
ウスイに行くよと合図を送ったセイメイは、サヨから離れて何事もなかったかのように歩いて行った。
< 177 / 218 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop