ブラッティ・エンジェル
 犠牲。私は、星司を犠牲にした。
 視線が歪むのを自覚したヒナガは、上を向いた。目にたまったものが流れ落ちないようにと。
 星司に会いたい。
 しかし、今はそれを認めてはいけない。認めてしまえば、しなくてはいけない事を後回しにしてしまう。
 もう、時間がない。早くしなくては、大切な人達が消えてしまう。
 いつもの様に見えた彼女の体も、いつ崩壊するかわからない。
 酷いといわれても、やり遂げなければいけない事。
 星司には会えない。
 来世なんか、わからない。
 どうしてそんな事を言ってしまったのだろう。忘れてくださいとでも言えば、こんな気持ちにならずに済んだのだろうか?
 しかし、会えなくとも星司が待っていてくれている。いつか、会える日が来ると思うだけで全てがうまくいくような気がしていた。
 だからなのか、あんな事を書いてしまったのは。
 どんなに言ったって考えたって、私は星司を離したくなかったんだ。星司から離れたくなかった。
「サヨも、余計なお節介をしてくれますね」
会いたくなってしまった。今すぐにでも、彼のところに飛んで行きたくなってしまった。
 サヨにあんなに強気に言ったのに、情けない。
 これが、星司の言っていた心というものなのだろうか?
 不思議だ。天使には心がないはずなのに、心を感じられるなんて。
「もしそうなら、逆らってはいけないのですよね」
ヒナガは軽い足取りで、その部屋から出て行った。
 しばらく飛んでいなかったけど、飛ぶ力は衰えていないようだ。

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