ブラッティ・エンジェル
 会いたい。考えてしまったら、口に出してしまったら、それしか考えられなかった。
 カウンターに突っ伏して、そのときを星司は待っていた。
 昔のことを思い出していた。ぶっきらぼうだったなと、一人で苦笑いをした。もう少し、愛想よくしておくべきだった。つか、そもそもヒナガは自分のどこに惚れたんだ?
 星司は一人で小さく笑っていた。
 過去を懐かしみながら、いつか来る今を待ち遠しく思っていた。
 日はもう傾いてしまっていた。夜がもうすぐ来る。
 星司は、目を閉じた。なぜだか、今が心地よかった。
「風邪ひきますよ」
あの頃より、少し声が落ち着いたような気がした。
 星司は目を開け、顔を上げた。夕焼けが眩しい。
 それを背にしている彼女は、記憶の中の彼女となにも変わらない姿だった。
 愛しい気持ちが全てを支配したような気がした。
 星司は、心が命じるままに動いた。ヒナガもまた、同じようにかけだしていた。
 ぶつかるようにお互いの胸に飛び込んだ二人は、なにも言わずにしばらく抱きしめあっていた。
 こんなに、小さかっただろうか?
 星司は、腕に抱かれている愛しい人を強く強く抱きしめた。
 別れたときにしたように。離れていかないように。
 この気持ちを表す言葉なんかないのではないか?
 そう、ここにいる。ふれあっている。存在を確かめ合っている。それが思いを伝える事のできる手段だった。
 ずっと、このままでいたい。時間なんてなくていい。
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