ブラッティ・エンジェル
 これで最後なのに、こんな別れ方は辛い。最後に見る望の顔があんなに辛そうな顔なんて。幸せになって欲しいだけなのに、結局傷つけてしまった。
「待って!」
後ろにバランスが崩れる。今のサヨにはそれを正す体力は残ってはいなかった。力が抜け崩れるように、腕を引っ張った望の胸に倒れた。
 とっさに抱きしめる。体にかかるサヨの重さが、なぜか不安を募らせる。
「サヨ!」
グッタリとしたまま動かないサヨの顔を覗き込むと、目を閉じて苦しそうに呼吸をしていた。
 望の体中の血の気が引いていく。
 直感的に、危ないと思った。しかし、どうすればいいのかわからない。
 どうにも出来ないまま、望は今にでも消えてしまいそうなサヨをギュッと抱きしめた。
 自分は無力だ。こんなにも大切な人がこんなにも苦しんでいるのに、なにも出来ないなんて。悔しくて、望は唇を噛んだ。
「望!」
上から聞こえて来た声に、望は助かったと希望を持った。
 落ちてくる矢のように、こちらに向かってくる影。小さな影が2つに、大きな影が1つ。
 誰かまでは望の目には判別は出来なかった。しかし、サヨを助けてくれるに違いない。
「助けてくれ。サヨを…」
不安そうな顔と声。不安すぎて恐怖にも見える望の顔は、とても頼りなかった。
 降りてきたのは、ユキゲとウスイ、それにヒナガだった。
 ヒナガの顔には驚きはなく、全てわかっていたとでもいうようなものだった。反面、ウスイの顔は悲しみに暮れていた。
 望にはその意味も今なにが起こっているのかも、理解出来なかった。それでも、サヨの危険は嫌なほどわかる。狂ったかのように、何度も何度も助けてと繰り返す。
 眉をギュッと寄せ眉間に皺を刻んでいたユキゲが、叫んだ。
「てめぇが悪いんだよ!余計なことしやがって!」
噛み付くように望を睨む目には、苛立ちと後悔、悔しさ。そういった感情が見える。しかし、全て望に向けたものではなかった。ユキゲ自身に向けるものもあるような気がした。
 助けを求めていた望は、口を開いたまま動きを止めると、驚いたようにサヨに目を落とした。
 いまだに苦しそうなサヨが、そこにはいた。
「俺が?サヨをこうした?」
催眠術にでもかかったような、はっきりしない言葉。そこから、ショックの大きさがわかる。
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