ブラッティ・エンジェル
 彼を信じるしか、道はない。望は疑うことを捨てて頷いた。サヨを助けたい。
 それを見て、神は柔らかく微笑んだ。
「君のその目を貰うよ」
「え?」
ざわめき。
「君の目は天使が見える特別製。それはね、神の加護なんだ」
ヒナガが息をのむ。ずっと探し求めていたもの。欲しかったものがこんなところにあったなんて。しかし、加護は天使にのみ与えられるもののはずなのに、なぜ人間に。
「僕もイタズラ好きでね。たまにこうして異例を作るんだ」
ケラケラと笑う神は、どことなく普通の子供と同じように見えた。
 その発言に、セイメイはため息をついた。
「まだそれやっていたの?悪趣味だヨ」
「人の趣味をバカにしないでよね。僕に言わせてみれば、セイメイの方が可笑しいよ」
言い合い。普通の人間のような言い合い。相手が神だということが嘘のようだった。そういえば、セイメイも元魔王だ。
 今までの緊張はどこにいったのか、空気はどことなく穏やかになった。
「そのおかげで今、助かっているじゃないか。その加護があればサヨを元に戻せるし」
さすがにセイメイも黙った。もっともだった。それがどんなに悪趣味でも今は助かるのだ。
 勝ったとでも思ったのか、神はふふんと鼻を鳴らした。
 それに気づいたセイメイは若干いらついた。
「じゃあ早く助けなヨ」
「せかっちだなぁ」
本当に信じていいのかと、疑いたくなるようなぐらい子供に見えた。
 歩いてくる神にヒナガは道を空けた。
 望の前に立った彼は、さっきの子供のような雰囲気と違って、優しいまさに神のような雰囲気を漂わせていた。
「本当にいいんだね」
その問いに、望は頷いた。
 もう、この力はいらないから。この目があったからサヨと出会えた。しかし、この目があったからサヨが違うということをわかってしまった。
 サヨを助けるためなら何でもする。でも、魂とか命はあげられない。最低かもしれないね。そんな事をいうのは。でも、そうしたらきっとサヨは喜ばない。サヨは人の命で生きるようなマネはしたくないはずだから。
 でも、目ならあげられる。自分に出来ることはこれだけ。これだけでも自分に出来ることがあるから。
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