ブラッティ・エンジェル
静寂。
「天使であることを剥奪する。神から心を手に入れることのないまま、羽根を落とし人間と同等になること。それが君への罰だよ」
神はにっこりと笑った。
 それは確かに罰ではあった。しかし、サヨには願ってもいない捧げ物。サヨの顔は一気に明るくなった。それがどういうことかわかっているから。人間と同等になる。人間のように年をとることができる。望のそばにいることを許される。壁が消える。
 嬉しくて嬉しくて、サヨは泣いた。
 ユキゲもウスイも、自分のことのように喜んでサヨに飛びついた。
 セイメイとヒナガはただただ驚くばかりだった。
 そして、セイメイはふっと笑った。
 慈悲深い神様。確かにその通りだ。
 神が手をかざすと、そこには真っ白い大きな窓のような門が現れた。
「ここを通ると、君はもう天使ではなくなる。それと、人間界につながってるから帰り道は安心して」
「ありがとうございます」
「いいって。これは罰なんだから」
あははとさわやかに神は門の隣で笑っていた。
 もう来られない天界。名残惜しいといえば名残惜しい。離れがたくないといえば嘘になる。しかし、サヨには彼と生きる人間界の方が魅力的なのだ。
 もう会えるのかもわからない、友人たちを門の前で振り返る。別れの言葉は言わない。別れではない。旅立ちだから。
 涙なんか見せない。サヨはにっこりと笑った。みんなが手を振っているのが見える。もう、涙が出てしまうじゃないか。
 サヨも軽く手を振って、未来の希望を胸に抱いて走り出した。

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