ブラッティ・エンジェル
 ようやく、自分の姿を確認したユキゲは目を輝かせて、確かめるように自分の体を触りだした。
「すげ~!俺、急成長してんじゃん!なにこれ、やばくないか!」
相当、自分の姿に満足して感動しているようだった。
 小鳥でも空に放すようにウスイを手放した神は、ユキゲの隣に立った。肩を組もうとしたが、身長差があり、届かない。
 それが楽しいのか、ユキゲの目が弓なりになった。
「それが、君の今後だよ。天使に昇格、おめでとう。パートナーは後で向かわせるよ」
「サンキュー!」
神の手を握ったとたん、ユキゲの姿はその場から消えた。本日二回目。しかし、そこにあったものが一瞬に消える光景はいつ見ても驚く。心臓に良くない。
 全身鏡をしまった神は、今度はウスイの方を見た。やはり、神の澄んだ目に射貫かれると背筋が伸びる。
「君は、真面目だなぁ」
見破った神は、おかしそうにケラケラと笑った。見破られたことが恥ずかしくて、ウスイは体中を赤く染めた。
「さてと」
神はぽんっと手を叩いた。すると、先ほどのユキゲと同じことが起こった。ウスイには、二回目の体験。腰まで伸びた長い銀髪がさらりと揺れた。以前とは違う銀髪と黒い翼。
「君の今後は悩んだよ~。選択肢が多すぎて。でも、これが一番だね」
「感謝しますわ、我らが主」
いつものウスイならしないような、眩しいぐらいの笑顔。ユキゲとは違う表現だけれど、きっとユキゲよりも喜んでいるに違いない。ウスイは、自分を表に出すのが苦手な不器用な子だから。
 今まで辛いことがあった分。彼女らにはその分だけ絆が強まり、自分を知って、強くなっている。そんな彼女らに幸あれ。
 神は、この部屋から消えていくウスイを見送りながら祈った。神なのに、いったい何に祈ったのだろう?しかし、神だからとこればかりはどうしようもないことなのだ。彼女たちがこれからどう暮らすか、幸せな道に進むか、神ですらそれを与えることはできない。彼女たちの問題。心が示すものだから。
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