ブラッティ・エンジェル
「ちょっと。終わったなみたいに思ってないよネ」
神のやりきったというような顔を見て、忘れられているように思ったセイメイは若干不安になった。
 別にこのまま天使をやってもかまわないのだけれど、ちょっと問題があった。ここには扉がない。ということは、勝手に出て行くことができない。おまけに自力も無理ときた。神の力でなければ、無理だ。忘れられているのなら、いつまでもここにいなくてはいけない。そんなのごめんだ。サヨと二人きりならまだしも、こんなやつとなんて願い下げだ。
「あはは。忘れてたよ~。君って、意外に影薄い?」
この無邪気でさわやかで眩しい笑みが、この上なくむかつく。セイメイは背中の後ろに隠している拳を震わせていた。そして、こちらも負けじと、笑顔をふりまく。元々、笑っているような顔をしているのだけれど。
「セイメイ。笑顔が怖いよ~」
「そんなことないヨ。いつも通りのはず」
「だから、ふられちゃったのか」
セイメイの顔がぴくぴくと引きつる。
 そうだった。こいつは昔からこんなやつだった。無邪気の皮を被った悪魔。腹黒いとは少し違う悪魔。人を苛つかせるプロ。
 ここでキレたら負けだとセイメイは思い、そのまま声を上げて笑う。
「ちょっと、無理しすぎじゃない?笑顔、引きつってるし」
「いや、だから。いつもだヨ」
「またまた~。嘘はよくないってば」
さすがに、セイメイも限界がきた。しかし、まだ負けたくないらしい。顔は笑顔を貼り付けている。言葉は出てこないけれど。もう、そこで神の勝ちが決まっているような気がする。それでも、セイメイはどうしても認めたくない。
 しばらくのにらみ合い。とは言っても、両者笑顔。無邪気な笑顔対引きつった笑顔。
「まあ、いいや。君のことを話さなきゃいけないし」
神はいまだに笑顔を絶やさない。セイメイはすっと笑顔を消した。
 そして、神はセイメイを指さした。
「あ、セイメイの負けだ~」
「なっ!」
しまったとセイメイは、言葉を失った。完敗だった。そう、神は笑顔を絶やしていなかった上に、やめだと言った訳ではなかった。まあいいや。それだけだった。
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