ブラッティ・エンジェル
 迂闊だったとセイメイは、肩を落とした。
「じゃあ、罰ゲーム」
ポンッと神はセイメイの肩を軽く叩いた。すると、セイメイの姿が一瞬にして変わった。
 背中に生えていた翼が消え、服も真っ黒いまるで神のような服になった。髪も若干伸びたように見える。
 懐かしき自分の姿に、セイメイは驚いていた。
「うん。君はこっちの方が似合うよ」
まるで親友が黄泉からでも帰ってきたかのような、嬉しそうな笑顔をしていた神。セイメイは苦々しく笑った。
 神は酷なことをさせるな。もう十分生きた。それを聞いていないわけではないだろう。神は子供だから、好きな人をそばに置きたがる。気に入ったものはどうしてもそばに置いておきたくて。一人も嫌い。寂しいから。だから、逃げ出したボクを捕まえた。
 神と魔王。そう生まれてきたボク達には、終わりが用意されていなかった。
 始まりすらも、わからない。それほど前から存在していた。この地はボク達が創った訳でもない。誰かから、与えられたものだった。そこに、神が気まぐれに命を創り上げた。理を創り、世界を創った。
 それからの記憶はある。長い永い記憶。もう十分だって自分でも思うほど永い。
 だから、ボクは逃げた。終わりに逃げた。サヨチャンのことは本当に好きだった。しかし、その気持ちは本当か疑いたくなるほど、ボクはそれを理由にした。それを理由に逃げた。
 捕まれば終わりだと、わかっていた。この希望が。ボクはまたあの永い時に戻されてしまう。それはいやだった。
 しかし、サヨチャンを放ってはおけなかったから。彼女の苦しむ顔は見たくない。彼女の幸せを願っていた。だから、ボクは戻るしかない。永い永い時に。
 いつかくるかもしれない終わりを二人で待ちわびながら。
「キミ、マジシャンやれば?荒稼ぎできるんじゃない」
皮肉をたくさん言ってやらないと、気が済まない。それでも、気が済まないときはまた逃げてやる。
「あはは。いいかもね。キミが客呼んできてよ。女の子口説くぐらい、朝飯前でしょ」
「ボクのこと、買いかぶりすぎだヨ」
「パクリはいけないよ~」
さわやかに笑う、友。近くに現れた、ソファにだるそうに座る。こんな日々も悪くないのかもしれないと、セイメイは目を閉じた。
 そこに見えるのは思い出の数々だった。
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