ブラッティ・エンジェル
 今は人と同じものになって、今はHEARTで働いている。昔のだたの手伝いと違い、お給料をもらっている。
 今はアパートで暮らしているけれど、いつかは望のアトリエを買い取ろうと思っていた。
 勘違いしないでよ。いまだに希が忘れられないとか、未練があるという訳じゃない。ただ、彼が生きた証のあのアトリエをなくしてしまいたくはなかったから。それまでは、ゆずちゃんに残してもらおうと思っていた。思っていたけれども、その心配はなくなってしまった。ゆずちゃんが、あそこを新居にするのだと決めていた。希の絵は一つも捨てずに大切に保管してくれるって。欲しいならくれるそうだし。希のあの部屋はそのままにしてくれるって言ってくれた。それなら、大丈夫だ。
 教会の入り口前に、ドレスの人だかりができていた。ということは、ゆずちゃんの言っていたブーケトス始まるんだ。
 サヨと望はそれを遠目に眺めていた。
「なんか、怖いぐらいすべてがうまく収まったね」
サヨの隣で、望がぽつりとつぶやいた。
 そうだとしても、サヨは今の幸せを疑えなかった。
 今隣に、望がいる。サヨには、それだけで満足だった。他には、何もいらない。
 私は人間に恋をした愚かな天使だったのかもしれない。さっき、ウスイから聞いた話では、私は『ブラッティ・エンジェル』と呼ばれているらしい。人に恋をし、禁忌を犯し、翼を落とされた天使。
 他の天使はそれを聞いて何を思ったのだろう?しかし、それは私にはわからないこと。心はそんなに簡単なものじゃないから。
 ただ私は、恋をした。
 その人が隣にいる幸せをかみしめながら、私は老いていこう。
 あなたがそばにいれば、私は心を確かめられるから、どうか離れるようなことをしないでね。
 私には、あなたが必要で、あなたが苦しいほどに愛おしいのです。
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