ブラッティ・エンジェル
寿命
 「早くいこ。」
待ち合わせの一時間前だというのに、彼はいた。
 たまたまそこを横切ったとき、もうすでにいた望がサヨ達を見つけ、声をかけたのだ。
 もちろん驚かないはずがない。
 まだ待ち合わせの時間ではもちろん無かったが、サヨは望に付き合うことにした。
 「まだ、時間じゃないの。」
「いいじゃん。」
サヨは、もう何回目になるかわからないため息をついた。
「わかったよ。でも、今日じゃなくてもいいんじゃない?」
「なに、急に。」
「いや、その、何となくよ。」
「俺、ジャマ?」
望が心配そうに上目遣いでサヨを見てきた。まるで女の子がおねだりするみたいに。それが様になってるから、すごい。
「違う、じゃなくて…その。」
「じゃ、いこ。」
「じゃないって言ってるでしょ!」
抵抗もむなしく、サヨは望に引きずられるような形で連れて行かれた。
「場所わかってないのに、どこに行くつもりなのよ!」
「ノゾム、場所はよ〜」
「ユキゲ!」
望に耳打ちしているユキゲを、思いっきり睨みつけた。
 望の足が止まり、顔が強ばっている。
「そこって、俺の…」
「そうよ。君のお母さんの病室。」
サヨは、困ったというため息を一つついた。
 そして、こっそり逃げようとしていたユキゲを捕まえた。
「よくやってくれたわね。」
サヨは小声でユキゲを怒鳴った。反省しているのかしていないのかわからない顔で、ユキゲは手を合わせて無言で謝った。
「母さん、死ぬの?」
「生きている限り、人は死ぬ。
 あなたのお母さんの寿命が、今だってこと。ただ、それだけよ。」
サヨは、ただ彼を励ましたかったのに、逆に傷つくような冷たいことを言ってしまった。サヨは、そのことをわかっていた。
 だけど、それしか言えることが無かった。
「私は、先に行ってるから。」
ユキゲを捕まえ、空に飛んでいった。
 うなだれている彼を置いて。
 
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